永平寺での体験修行

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永平寺での体験修行
11月初旬、冷たい雨の降る中、名古屋国際学園 (NIS) の11年生19名が、 福井県にある曹洞宗の本山、永平寺を訪れました。現地に到着するとまず、同伴した教師が生徒達の携帯電話、財布、雑誌や本など、修行中には不必要なものを全て回収します。たった1泊2日、正味20時間足らずの短い修行ですが、生徒達は外の世界との関わりを絶ち、座禅や作務(さむ=床のぞうきんがけなどの勤労)を行い、出来るだけ雲水(うんすい=修行僧)の皆さんと同じような一日を送るのです。なんとか正座は出来る日本人生徒もいれば、お寺に足を踏み入れるのは全く初めて、正座もしたことがない外国人生徒もいます。到着するまでのバスの中では騒がしかった生徒たちも、緊張した面持ちで静かに山門をくぐりました。こうして、 IBプログラムの「知識の理論(Theory of Knowledge/TOK)」の授業の一環としての、永平寺での体験修行が始まりました。
How do you know what you claim to know?
あなたが「知っている」と認識していること、どうしてあなたは「知っている」と言えるのですか? どのようにして知り得たのですか? どうしてあなたはそれが真実だと思うのですか?
知識、つまり、自分が「知っている」と認識している事柄を、知覚(perception)、言葉 (language)、感情 (emotion)、道理 (reason) の4つの「知る手段」(Ways of Knowing)という観点から論証し、知識の本質を探るのがTOKです。「知る」ということについて徹底的に考える授業なのですが、一方で教師は、「徹底的に考える」こととは対極にある、禅の世界での「真理をつかむ行為」つまり、座禅に注目しました。
自分が住む国の文化について学ぶことは、IBプログラムにおいて重要視されていることの1つでもあります。 NISはいかなる宗教とも関係を持たない学校ですが、禅の世界を体験することは、通常のTOKの授業とは違う観点で物事を捉えること、そして日本の文化を体験するためには絶好の機会だったわけです。
ただ一心に
雲水さん達に暖かく迎え入れて頂き、楽な服装に着替えたら、早速最初の座禅の開始です。座禅といえば、悟りを開くために、足を組んで坐り、目を閉じて瞑想にふけるものだと思われがちですが、 曹洞宗の開祖、道元禅師が説いた座禅は、頭を空っぽにし、何も考えずに一心に坐り続ける「只管打坐(しかんたざ)」です。 答えや悟りを求めずとも、ひたすら無心で坐ることにより真実の自己が見えてくるというのが曹洞宗の教えなのです。僧堂に入れて頂いた生徒達は、一人一人の座禅スペースである一畳の「単」に、壁と向かい合って座禅を組みました。足の痛みをこらえることや、姿勢を正すことに気を取られて、無心で坐ることとは程遠かった生徒がほとんどでしょう。初めての座禅、しかもたった数十分で無の境地に達する、真実の自己を知るなどということはなかなか出来ることではありませんが、こういう形で「知る」こともあるのだということを少しだけ感じ取ることは出来たのではないでしょうか。
「放てば手にみてり」
入浴、夕食、夜の座禅の後、法話を聞く時間もありました。法話では、道元禅師の「正法眼蔵」の中の「放てば手にみてり」という言葉について分かりやすく教えて頂きました。「手放せば手に入る」——つまり、掌を握りしめていては何も掴めない、執着を捨て、手を開けばおのずと豊かな真理が手に入るという意味で、無心に坐ることで真理を掴む座禅とも通じるものがあります。私達は忙しい日常、競争の激しい社会の中で自分を見失いがちなのですが、ひたすら追い求めるばかりでは本当に大切なものは手に入らない、足を止め、欲や固執を捨て、自己と向き合うことも時には必要だというお話でした。卒業を1年半後に控えて、毎日課題に追われ、勉強も大変になる一方の11年生達の心にはどう響いたでしょうか。
翌朝は3時半に起床し、座禅を行い、床の雑巾がけをし、朝食にはお粥を頂いて、体験修行が終了しました。育った環境も宗教観も異なる生徒達がこの体験を通して感じたことは様々でしょう。ただ、モノも情報もあふれる豊かな時代に生まれ育った生徒達の多くにとって、たった一日でも外の世界との繋がりを断ち、質素な生活を送ったことは、初めて「足るを知る」ことを学んだ貴重な体験となったはずです。
修行中は神妙にしていた生徒達も、一歩外に出れば再び元通りの元気で騒がしい高校生の集団に戻ったようにも見えました。しかし、未知の世界に足を踏み入れ、欲を捨て、一心に取り組んだこの体験修行で得たものは、ほんの少しだけでも彼らを変えたのではないでしょうか。
(2010年11月)
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